レンズを通った光は屈折し、最終的には1点で像を結ぶことができれば、歪みのない完璧な写真が撮れるわけですが、光の種類や場所により屈折率が変わってくると、光を1点に結ぶことが難しくなり、像がボケてしまったり歪んだりします。
このような現象を「レンズ収差」と言い、レンズメーカーはこの収差をできるだけ少なくするために日々技術向上を重ねています。ここでは、レンズ収差についてご紹介させていただきます。
レンズの球面収差
球面収差は球面レンズの中央部を通った光と、レンズの周辺部を通った光とで、光に集まる距離にズレが生じることで起きる現象です

レンズの中心部分に比べて、レンズの周辺部分(端の方)は、中心部に比べてもっと手前でピントが合うようになり、これで写真を撮ると、写真の中央ではピントが合いますが、写真の隅のほうではピンボケになります。このような現象は明るい大口径のレンズで、焦点距離の短い広角レンズほど起こりやすくなります。
球面収差を軽減するには?
絞りを絞って撮影する
絞りを絞り込むと、レンズの中心付近しか使わなくなります。そうすると中心部と周辺部の距離が短くなり、収差が軽減します。適度に絞りを絞ることで解像感やシャープネスが上がり、画質が向上します。

非球面レンズ採用のレンズを使う
非球面レンズとはその名の通り、レンズ表面が球面ではなく、複雑なカーブを描いたレンズのことを言います。非球面レンズにすることで、周辺部の光でも中心付近とほぼ同じ焦点に合うようになります。
非球面レンズを採用しているレンズは、絞りを開放しても高い解像度とシャープネスで撮影できるのが特長です。以前は生産コストが高く、一部の高級レンズにしか採用されていませんでしたが、最近では量産が可能になったことで、入門用レンズも含めて幅広く使われています。

現在発売されているレンズについては、球面収差による画質低下はほぼないと思ってもらってよいでしょう。
レンズのコマ収差
コマ収差は夜景などの撮影でよく目立つ収差の1つです。「コマ」とは回すコマのことではなく「彗星」のように見えることからこの名が付きました。メカニズムについて難しいので、ここでは詳しく説明はしません。

上の写真は輝く工場夜景の写真ですが、中心部の光は丸い形をしていますが、周辺部の光は尾を引いた三角形のような形をしています。レンズの中心から離れるにしたがって、光が1点に集まらずに分散してしまうためこのような現象が起きます。

コマ収差は超広角レンズで絞りを開放にした時に発生しやすく、外へ流れる現象もコマ収差が悪さをします。星空や夜景以外でも目立つことがあります。
コマ収差を軽減するには?
絞りを絞ればコマ収差は大幅に改善する
コマ収差は特にレンズの口径が大きい明るいレンズを使い、絞りを開放することでとても目立ちます。球面収差と同じく絞りを絞って余計な光を入れないようにすればコマ収差は大きく改善できます。
レタッチソフトで強制的に修正する
レタッチソフトを使えば、コマ収差を消すことができます。ただし、ボタン1つでできるものではなく、1つ1つ修正していく感じです。星空のような黒い背景に点光源ですと修正しやすいですが、夜景のように複雑な写真の場合は修正が困難です。
レンズの歪曲収差
歪曲収差は像がへこんで写ったり、膨らんで写ったりする現象で、真っ直ぐな書類を撮影したり、格子状のものやビルなどを撮影すると目立ちやすくなります。

糸巻き型収差は上の写真のように写真中央がへこんで見える現象で、主に望遠レンズで出やすい収差です。

樽型収差はポッコリお腹が出るように膨らんで見える現象で、広角レンズで出やすい収差です。魚眼効果を出すために故意に樽型収差にさせるソフトやアプリもあります。
歪曲収差は調整で軽減できないが、後から補正は可能
歪曲収差はレンズ個々による差で発生するため、球面収差やコマ収差のように絞りを絞っても改善されません。しかし、撮影後のレタッチソフト等で、レンズごとの癖を補正し、収差を軽減するこができます。
そのほかのレンズ収差
私たちが写真を撮影するうえで最も身近でわかりやすい収差は、上で挙げた「球面収差」、「コマ収差」、「歪曲収差」ですが、その他に代表的な収差が2つあり、5つ合わせてサイデルの5収差と呼ばれています。残りの2つも含めて簡単にご紹介します。
非点収差
レンズの縦と横のピントがずれることが原因の収差で、像の周辺部では点ではなく楕円に見えてしまう現象のことを言います。夜景や星空写真に多く、点光源で著書に見られます。鳥が羽ばたいているように見えたり、土星のように尾を引くのが特徴で、前述したコマ収差も非点収差の仲間です。

上のような星空写真の周辺部で非点収差はよく見られます。絞り込むことで軽減されますが、星空写真は基本的に絞り開放で撮らなくてはならない場合が多いので、大幅な改善は難しいと言えます。
像面湾曲
平面なものを撮影する時、中心部と周辺部でピントのズレが生じ、中心部でピントを合わせると周辺部がピンボケし、周辺部でピントを合わせると中心部のピントがボケてしまいます。
これは実際にイメージセンサーが平面にて対して、ピントが合う場所(結像)は完全な平面ではなく、カーブを描いているため発生する現象です。
特に撮影可能距離ぎりぎりまで近づいて書類を撮影したりすると、中心部のピントは合っているのに、周りの字がボケて見えたります。対策としては絞りを絞るか、被写体から距離を離してやると軽減します。
色収差
色収差は光の屈折率が色によって異なるため起きる現象で、写真としては色にじみや意図しない色が現れることで発生します。色収差には軸上色収差と倍率色収差の2種類があり、それぞれの発生メカニズムは難しいのでこのサイトでは紹介しませんが、これらが悪さをすることで画質低下の要因となっています。
色収差はパープルフリンジなど、一部の例外を除き、絞りを絞ることでも改善できないことが多く、レンズ自体の性能がモノをいう(レンズの良しあしを決める)収差でもあります。
各レンズメーカーも色収差を抑えるために日々努力しているわけですが、特殊な低分散ガラスや蛍石レンズなどを組み合わせて、できるだけ色収差を抑えるレンズが開発されています。
ただし、そういったレンズは高級レンズと呼ばれており、価格もそれなりにするのがデメリットと言えますね。
レンズ収差の種類や対策について まとめ
- 球面収差は絞りを絞るか非球面レンズを採用することで抑えられる
- コマ収差は写真の隅の方で発生しやすく、絞ることで軽減できる
- 歪曲収差は性能がレンズに依存し、絞りを絞っても改善されないが、レタッチソフトで簡単に補正できる
- 上記3つに非点収差と像面湾曲を合わせて、サイデルの5収差と言われている
- 色収差はレンズに依存し、色収差の少ないレンズは高級レンズに採用されている
近年では光学技術の進歩により、30年前の高級レンズより、今発売されている安いレンズでも光学性能が上になってきているものもあります。なので以前に比べると収差を抑える質も上がってきているので、それほど気にする必要はありません。
上記を参考にレンズの収差についての知識を深めていただき、今後のカメラライフに生かしてみてください。